他児との共同活動で一体感を味わい、友達意識を高めていく
先に述べてきたような活動を少人数で一緒に行っていきます。しかも、大きなベニヤ板やジャンボマットを使ってできるだけ同時にできるように工夫しています。様々な活動の達成感で、感情が沸き上がってくるとき、同時に行っている他児の達成感の感情とかが共振し会って、喜び合う状態が出てきます。このバイブレーションが一体感を生み出してきます。お互い声が大きくなって、動きも活発になってきます。1人が大きく叫ぶと別の子も大きく叫んだりして交信が生まれます。子どもがふざけて走り回ったりすると他の子もつられて同じことをしたりします。
人はある人が壁穴から覗いていると他の人ものぞきたくなるようにできています。他児が面白そうなことをしていると自分もやりたくなります。そのようにして自分と同じ目的を持つことができ、同じような達成感を感じる存在として他児を意識するようになります。
発達のレベルによって違いがありますが、大体、年中の頃から、旗取りや箱車に乗って紐引っ張り、ハエ叩きゲームなどの活動で競争が始まります。他の子より速くやろうとして集中力が俄然、増してきます。自我意識も強くなり、自己主張して他児とぶつかり合うことも増えてきます。
目的と手段の分化した遊びのレパートリーが増えていくとき、『こうすればこうなる』という頭の中だけで行う一瞬のシミュレーション機能が発達してきます。あれこれ思いついたことを次々やっていく一人での遊びでの思い付きは一瞬に過ぎて、心に残ることは少ないと思われます。他児と一緒に活動するのを体験してきて、競争する面白さや同じ達成感を味わいたい気持ちが強くなっていると、自分だけの思い付きで行動するより、みんなとやれる共通の思い付き(想定)で行動する方へ気持ちが向きやすくなり、大人が提案するルール遊びを受け入れて、共通のルールで競争する面白さを発見することになります。
そのような過程を経て、椅子取りゲーム(合図ですぐ椅子に座る)、じゃんけんゲーム(勝ったら前に進み、負けたら元に戻る)などの単純なルール遊びが楽しめるようになります。他児との追いかけっこなどで、人とのやり取りの面白さ実感してきているとドッチボールでも、片方が投げるともう片方が逃げるのを交代しながら繰り返すようになります。そして、様々な鬼ごっこで、例えばしっぽ取りでは、鬼以外の子が逃げ、鬼が追いかけてしっぽを取るなどのゲームを楽しめるようになります。これらは、役割を交代しながら、やりとりを続ける遊びの面白さと言えます。
年長になるとそれらが発展して、ハンカチ落としゲームでは、回りながら誰かに落とし、落とされた人がすぐ追いかけて、タッチ出来なかったら、回って別の人に落とすなどハンカチを落とす役割の人が次々変わっていくルールなど少し複雑なルールのやりとりを楽しめるようになります。また、氷鬼では、鬼にタッチされたらその場で固まって、全員が氷になると鬼が交代するが、その前に鬼じゃない仲間がタッチすると溶けて逃げられるなどの複雑なルールでのやり取りを面白がるようになってきます。
ドッチボールでは運動能力高い子であれば、ボールを遠くまで投げて当てられ、逃げるのも素早くなり、キャッチすることもできるようになってきます。
かくれんぼでは年中の頃は隠れているのにごそごそ音をたてたりしていますが、年長になるとできるだけ見つからないところに隠れてじっとしていることができるようになります。これは鬼が探しているので自分は見つからないようにしなければいけないという2つの役割を同時に意識できるようになっていることを意味します。また、高鬼ゲームでは、鬼が後ろを向いたとき素早く動いて捕まえられないようにするなど相手との駆け引きをして楽しむようになります。
勝負事が入っている活動では、負けると大泣きして悔しがったり、負けることを拒否してやろうとしなかったり、一度負けると気持ちを立て直すのにすごく時間がかかったりする子どもたちも多いです。何度も何度も泣き叫んだり、落ち込んだりしながら、勝つことも負けることもあることを受け入れて、徐々に前向きに挑戦できるようになると、自分の感情の自己コントロール能力が格段に上がって、ほとんどの子が大変な自信を持てるようになっています。
他児といろいろなルールのゲームで楽しめるようになることは、前提となる共通のルールを共有してやり取りを続けられるという仲間として他児を意識するようになります。役割交代や駆け引き遊びが上手になることは協調性や社会性の発達が進んでいる証拠と言えるでしょう。
複雑なルールの理解や先を読んで行動する力はもともと持っている知的な能力が大きく影響することは言うまでもありませんが、ここで述べてきた実際の他児とのやり取りで感じてきた数々の一体感の体験が1人1人の運動・言語・社会性などの全体的発達を押し上げていくと考えています。