発達の心配事があって私たちの発達支援事業キッズコミュソレイユに通われているお子さんで、一人遊びばかりで他児と一緒に遊びたがらなかったり、他児とトラブルになりやすかったりする子ども達がたくさんいます。でも、少人数でグループ指導している内にほとんどの子が他児と一緒に遊ぶことが大好きになってきます。その経過が多くの子の社会性の発達にも共通するのではないかと思い、このテーマで話すことにしました。
【社会性はどこから育ってくるの?】
生後2~3か月ごろから始まる「見つめあい」「声の交わし合い」などの母子の密接な交流が社会性発達の原点になります。そこで情動状態の共有が育まれます。それから7か月頃から、指差しなど、自分が見ている物を母親も見ているかどうか確認するなど、対象の共有が起こります。その後、おもちゃで遊んでいて壊れたりすると、母親を見て直して欲しがったり、うまくできたら母親に見て欲しがったりします。ところが、療育に通ってくる多くの子で、振り返って母親を見る行為がとても少ない気がします。共有意識が十分でないわけです。そこで、何かを誰かと共有することや活動を誰かと共有する指導がとても重要になります。(スライドで説明する)
幼児期になって、幼稚園や保育園で多くに他児と出会うことになります。元々、人は他児が面白そうなことをしていると自分もやってみたくなるように脳の神経細胞自体が働きだすようにできています(ミラーニューロン)。だから、先生が手遊びしたり、本を見せて読んだりすると多くの子がそちらを見るようになります。しかし、療育に通ってくるお子さん場合、よっぽど興味引くものを持ってこない限り、同じ方向を一斉に見るようなことは出てきません。
初めて、幼稚園とか保育園に通い出したときは不安や緊張することも多いでしょう。そこで、多くの他児と同じような行動をとれない子どももいるでしょう。でも段々慣れてくると多くの子が同じように遊び始めると思われます。
しかし、ことばの発達が遅れていたり、多動で落ち着きがない、人に合わせることが苦手などのお子さんの場合、すぐに他児と同じようにすることが難しかったり、そうなるのにとても時間がかかることが多々あります。そこで、多くの子が興味をもって活動したくなるような教材や活動の設定に工夫が必要になります。
●わかりやすく、見ただけでやってみたくなるような設定
●他児と同時にできる活動
●全身を使い達成感を感じやすい活動
●スリルがあって、他児と情動のバイブレーションが怒りやすい活動などです。
また、周りの大人が子どもと同じような気持ちなって、子どもが感じている瞬間に同時に、オーバーに声掛けることもとても重要です。
これらの共同活動を通して、他児と自分が同じようにできることがわかり、人間として、自分も他児と同じような存在であることに気づき始めます。また、情動を伴う全身活動は達成感が強く、他児との情動のバイブレーションが起こりやすくなります。そこで、人と人との一体感を味わえるようになります。十分な一体感は自己コントロールを生み出し、他児と歩調を合わせることが出てきます。自分だけでなく、他児も同じ様に楽しめる時、人間らしい、「他者と共にある」という幸せ感を持てるようになります。母親と共にあるという絶対的な安心感を得たように他児と共にあるいう体験は、1人じゃない幸せ感や自信を持つことに繋がっていきます。

これらを通した他児とのやり取りが、社会性の発達に繋がっていく。(一連の流れの活動例をスライドや動画も用いて説明する)
また、キッズコミュソレイユの以下の4人の事例を通して、その子ども達が大きく変わっていく過程でどのように他児との関わり合いがあり、それぞれの行動特徴に対してどんな配慮したかを述べた。その中で情緒的な成熟や自分から参加したくなるまで待ってあげることの重要さなど説明しました。
事例①(協調して遊ぶことがとても苦手だった子ども)
年中の頃は運動的な活動以外ほとんど参加せず、隣の部屋で遊んでいた。無理して誘うことをせず、好きそうな活動の時、誘うことにした。年長の頃は一緒の部屋にいるが違うやり方をすることが多かった。小学校で、途中から再度通うことになって、それからは苦手だったババ抜き・ドッチボール・ハンカチ落とし・高鬼・だるまさんが転んだなどの活動もできるようになった。
事例②(繊細で予期不安が強く登園拒否をしていた子ども)
登園拒否があって、少人数の園に変わる。年長から参加、いろんな苦手な活動があり、ババ抜き・ドッチボール・ハンカチ落としなど参加しなかった。自分からやる気になったら参加して伝え、じっくりみんながやっていることを観察していた。問題作りはとても時間がかかった。小学校になって、家で苦手なこともやりたいというようになり、心の準備をしていた。それから徐々にドンチボール・ババ抜き・問題作りなど積極的にできるようになり、今ではぐらグル綱引き・バルーン相撲・跳びつき等とても積極的になった。学校を行ける日が多くなってきた。
事例③(被害意識が強く、自己肯定感が低かった子ども)
否定的なことを言い続け、乱暴なことを叫んだり、泣きわめくことが多かった。溜まっているストレスを発散させるように好きなようにさせていた。段々大将気分で、他児を家来にして大人をやっつける攻撃的ゲームを繰り返ししていた。ずーとそれをやっていて本人はご機嫌になってきて泣き叫ぶことは少なくなった。いつも自分がリードした遊び方をしていたが、段々、他児が反抗するようになり、その他児の意見を取り入れた課題をするようにした。すると、本児もそれを受け入れるようになってきた。
事例④(攻撃性が強かった子ども)
年中で参加、極端に自分中心で思い通りにならないと誰でもグーでパンチしていた。前半の課題はほとんど参加せず、破壊的な活動や運動的な活動だけ参加していた。やられたらやり返す意識が強い子で、多動な他児に自分に突進してきたと思って激しく怒ってやり返そうとしたとき、別の他児にパンしてしまったこともあった。遊びで攻撃しあうなどの方がよいだろうと考え、ドッチボールをさせた。他児に近くまで寄って顔にぶつけたりすることがあったが、飛びつきなどの運動的活動で一体感を味わったり、カードでお互い発表したりする中で、相手のことが段々わかってきたのかパンチするのはほとんどなくなった。ボールをぶつけたりぶつけられたりするやり取りを楽しむようになってきた。
グループ間の調整の過程
(それぞれが自己実現するように援助する)
* 別の日、Bさんは満足しAさんは不満になったりする
* Aさんは満足するがBさんは不満になる日も出てくる
* 最終的にはみんなが満足するよう調整していく
* それぞれの個性と自己実現の仕方を他児も理解し始める
* その過程で譲り合いが出てくる
最後に『啐啄の機』という中国のことわざを紹介し、子育てにはタイミングが大切であることを説明しました。人間の赤ちゃんは本来社会性を獲得するように生れてきていて、どの時期にどのように大人や他児と関わることで社会性を発展させていくか見極めることが重要になります。
この講演に対して思いもよらない反響があり、素敵な感想をたくさんいただきました。私たちの経験を幼稚園に通う保護者の方々とも共有できてとても感動しました。
この講演会を開いてくださった善行森の幼稚園の先生方、保護者の方々に感謝いたします。
2025年3月17日
保護者様からいただいた感想例
Ⅰ 『啐啄の機』、子育てにはタイミング(見極め)が大切で教えるが育つをおいこさないようにすること、やがて訪れるその瞬間を待つことが必要ではないかという2つの言葉がとても印象的でした
Ⅱ 『肯定的な声掛けや母の笑顔が子どもの一番の喜び』というのも一番難しいですが、覚えておきたいです
Ⅲ 小学生になるまでに身につけてほしいことがたくさんあります。長い目で見て達成感を付ける土台をつくっていけたらと思います
Ⅳ ついつい子どもが失敗してしまわないように、周りの子に迷惑かけないように先回りして大人の考えを示してしまいがちになるので、子どものやる気の出るタイミングを待てるように少しずつ心がけていきたいと思いました。そして、できるだけ一楽しさや喜びを共有して笑顔で接して、アッという間に過ぎてしまう子育て期を大切に過ごしたいと感じました
Ⅴ 今回のお話を聞いて振り返ると、幼稚園に行きたがらないと泣き、他のお友達が滑り台で上り下りしていても、他の遊びをしていた長女が今では仲良しのお友達とごっこ遊びを楽しみ幼稚園にいくことを楽しみにしている。きっとうちの子の本来もっている他者と関わる力を熟成させていたんだなと腑に落ちたし、その力を思う存分幼稚園で発散させてもらえて本当に良かったと思いました
Ⅵ いろいろなことばが心に沁みた講演会でした。特に『子どもの心に響く話しかけ』はもう中高生になる姉兄にも心掛けていきたいと思いました
Ⅶ 『一体感をたのしめる→ その上でルールを』ということや『子ども同士で解決していく』生まれた時からの人間の性質を聞けて勉強になりました。『自分が見ている物を母親も見ているか確認する』など、人間の本能・性質すごいです。
Ⅷ 普段なかなか聞ける内容ではなく、とてもためになりました。できないことに目がいきがちですが、話を聞きできていることも色々あるのだとおもいました。苦手にしていることは聞いた話を参考にしっかり子どもの話を聞きながら向き合っていきたいです。
Ⅸ 社会性の発達についての根源から学ぶことが、幼児期の発達においてもわかりやすく理解することができました。現場での経験や療育の場でのことを踏まえたお話がとても興味深く面白かったです。
Ⅹ 集団の中では、ルール約束事を第一優先にしてしまいがちですが、子どもたちの中で一体感のある活動・経験があれば、自然にルールの必要性が出てくるという話に『なるほど』と思いました。
Ⅺ 社会性は生まれた時から備わっていて。それを引き出していくのが親や周りの大人の役割なのだというミラーニューロンの具体的例を知ることができた。社会性を育てる遊びの内容がすごく充実していて、ディスクワーク、遊びもあげて一人で なのでなくみんなで遊べるように考えられている